第6章 認知地図

人間は移動すること(…大きな動き)によって、大きな情報を知覚することができます。
例えば、
・頭と眼球を動かすことによって世界を知覚する。
・頭を動かすことによって音源の定位を知覚する。
・手を動かすことによって物の形や質感を知覚する。
※このように、人間は身体の動作を伴う事によって知覚をより効果的に行うことができるのです。ここからわかるように、実験室で、頭部を固定されスクリーンの前に座らされて行われる視覚や聴覚の実験は、著しく生態学的妥当性を欠いた実験なのです。

物と物の相対的な定位の知覚

部屋の中にいる私は、壁やドアの向こう側にある物の姿は知覚できません。しかし、身体の移動・・・すなわち、ドアを開けて、壁の向こう側に行くことによって、そこにある物・・・今まで部屋の中では知覚できなかった物が知覚されます。
そして、また部屋の中に入ってくると、出て行ったときに知覚できた壁の向こう側の物の情報を知覚することができません。しかし、壁の向こう側にその物があるということを知っています。
(壁=)物と(壁の向こう側で知覚した)物の相対的な定位を知覚したということなのです。
今、知覚している物(=壁)によって、情報が遮蔽されている物の知覚をしているのです。

「図式としての認知地図」

「定位図式」…新行動主義のトールマンが提唱した「認知地図」を、ナイサーが常に訴えるとことの、能動的な情報探索構造を意味する言葉に代えたものです。ナイサーは「認知地図」とは、活動しているものでなくイメージであり(過程でなく結果であり)、「定位図式」によって作り上げられていくものであると定義しています。
「対象図式」…いままで一般的に「図式」と表現していたものです。情報を物理的・直接的に取り出し、受け取っている対象物を「図式」としたものです。
よって、スタンドのような「対象図式」はこの空間の「定位図式」の一部である。と考えられ、部分的な「対象図式」も、全体的な「定位図式」も探索・情報抽出・図式の修正といった知覚循環の中に存在するのです。

ninchiimages601

枠全体が「定位図式」として、スタンドを「対象図式」とする。

スタンドだけを切り離して見ることは難しい。 なぜなら、この「定位図式」に包括された複数の「対象図式」は認知地図によってイメージとして保たれ、方向付けられるからである。

「動くことによって生ずる情報」

定位図式

対象間の位置に関する情報も含んでいます。
→知覚者自身の位置から、対象Aは対象Bより手前にあります。
(動いて近づいてみると、)
→対象Aは対象Bより5m手前にあります。
(対象Aを通り過ぎてみると)
→対象Aと対象Bの間には、対象Cが存在していました。

ninchiimages602

自己の位置と移動の知覚

移動することによって、対象から取り出す、または受け取る情報(光学的配列)は規則的に変化します。(変化しない唯一点、この方向へ移動していることが情報としてもたらされるのです。)対象の知覚を行う事によって、その対象を知るとともに、自己の位置や移動を知覚することができます。=視覚的自己知覚(J・J・ギブソン)

「周囲の環境によって自己を知覚している。」というのは、実験でも明らかでにされたいます。立っているだけなのに周りの壁などが音も立てずに前方へ移動すると、自己が後方へ移動したと錯覚し、倒れてしまいます。このような出来事は、日常でも経験されたことがあるでしょう。

駅に止まっている電車に乗っていて、隣に反対方向行きの電車が停車しています。先に隣の電車が反対方向に動き出すと、それを見ていますと、自己(自己の乗っている電車)が動いていると錯覚します。
(周囲の視覚的情報の急な移動ではないし、電車が動くであろうことは予測できているので倒れるまではいかないでしょう。)

「認知地図の多様性」

チンパンジーの獲得する認知地図

群れの中から、1頭のチンパンジーを檻から出し、食物を隠す作業に同行させます。そのチンパンジーを群れに戻し、群れ全頭を檻から放つと、食物を隠す作業に同行していたチンパンジーはほぼ直線的に最短距離を通って食物の下へと次々と向かって行くのです。
⇒この実験により、認知地図の獲得は言語化を必要としないことがわかります。
(幼い子どもは、かつて訪れた地をどのように訪れたのか言語化できなくとも、その認知地図は獲得しているのです。)

プルワット人の認知地図

太平洋の島民であるプルワット人は、独自に高度に抽象的な認知図式を発達させて、高度な航海技術を確立させています。
計測器も磁石も必要とせず、「天空」と「海面」、「島」を組み合わせ、航海を可能にしているのです。

「都市のイメージ」

都市のイメージの構成と視覚的知覚の構成

住民は、自ら居住する都市を、「目印」…塔や変わった建物、「道路」…移動可能な経路、「集中点」…道路の集まる所、「地域」…一定のまとまりある領域、「縁」…地域を分ける境界といったポイントで認知地図を作り上げている。
図式による視覚的知覚も、対象の目立った「目印」で方向付けられ、対象の顔をまとまりある「地域」として、「縁」で他の領域と分けて知覚する。「道路」や「集中点」は視覚的知覚において欠いているポイントである。

認知地図と心象

身体の移動・運動によって、定位図式を作り上げ、イメージとして認知地図を作成します。認知地図は、部屋の中で椅子に腰を掛けたまま想起できるものなのです。その認知地図は、心象と密接な関係があり、それを第七章で勉強していきます。

このページへの無断リンク・コピー・転用を禁止いたします。また、内容に関してのお問い合わせもご容赦願います。