第3章 日常の視知覚

「生態学的妥当性」

日常に起こることのない、刺激情報が与えられ、その刺激に対してのヒトの反応、知覚・知覚内容の保持に関する活動を観察する。

このように非日常的な知覚実験では、日常の知覚活動の検証実験にはならない。実験室で行われている実験は生態学的妥当性を欠いている。

実験の例

・刺激情報の知覚・保持の実験として無意味な単語を連続して呈示し、いくつ記憶できるかといったもの。
・無作為に抽出された数字を順にいくつ記憶できるか。…などがあった。
日常、何の時間的連続性もないできごとを知覚し、その知覚内容を保持する場面はない。ある刺激は、その前に与えられた刺激との時間的連続性を持ち、予期できる準備状態を作り上げて、知覚する。

時間的連続性・つながりがある

海→魚→釣り→(個人の経験)父親
↓ ↑  ↓
船→(個人の経験)船酔い
時間的連続性・つながりがない
顔 夢 痛い 父 歩く 茶 ・・・
但し、時間的連続性・つながりのない言葉に、物語のように空想上でも時間的連続性やつながりを持たせた場合、知覚し、その内容を保持することが容易になることがある。決して、現実に時間的連続性やつながりのない言葉であるから、知覚やその内容の保持が困難であるということではない。

「運動している対象」

網膜で、受像した(または、検出した)刺激情報は一つの対象のみではない。図1のように様々な対象が、それぞれ刺激情報を発信している。選択的注意が向けられる順に、首を動かし、眼球を動かして、知覚する。

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図2では、図1で知覚した対象の前をボールが飛んでいる。もちろん、このボールによって隠される建物の一部分があり、再び現れる部分があり…と1コマ1コマ写真のフィルムのように考えると、膨大なフィルムの処理が必要となるが、実際には、過去に知覚し、修正した図式(記憶)によって、隠された部分を補償している。

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また、図2で、ボールが今まで見えていた建物を隠すということは、これまでの経験によって、ビルよりもイエよりも近くにボールがある(通過している)ことを知覚できる。「まとまり」によって知覚を早め、「補償」によって、情報の遮断を図式で補い、「重なり」によって遠近を知覚する。ゲシュタルト心理学が体系化した理論である。

「接近してくる対象」

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ドア…ヒトが出入りする場所
ドアが開く→ヒトが入ってくるという予期ができる。入ってくるヒトの姿を知覚する準備をする。
足音が聞こえていたら、女性であるか男性であるかまで細かく予期し、詳細な図式を準備し、知覚の準備状態ができあがる。日常の知覚はこのような時間的連続性がある。
上記のような時間的連続性がなく、突然、ふいにヒトが現れた場合、知覚者は驚く。
→知覚する準備状態ができていなかったということ。

しかし、必ずしも準備ができていなければ、知覚ができないのかというとそうではない。過去の経験の中から、今受信(検出)した情報をあてはめるのに最適な図式を準備し知覚する。初めて見るヒトが入ってきても、過去の経験の中から、そのヒトを知覚するのに最適な図式を準備し、知覚活動を行う。

「静止している対象」

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1. 部屋全体の景色でスタンドをぼんやり知覚する。 2. スタンドに注意を向けると、柄に模様があることが知覚される。 3. 更に笠の部分のみに注意を向けると、笠の部分には非常に薄く刺繍が施されてあることが知覚できた。

これは、より知覚する対象の情報を細かく知覚するということであり → 受容または抽出する刺激情報を分化しているということである。

「期待効果」

知覚は期待によって方向付けられるが、それによって制御されるのではない。準備ができていなくとも知覚は可能である。しかし、図式を用意する時間が必要となるので、知覚を行うまでに、多少の時間を要する。 瞬間的に提示され、網膜で受信した像は個人の経験に依存する。

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上の図は何に見えますか?
正しい回答などない上のような図は個人の経験に非常に大きく依存する。その回答を臨床的に分析するのが、投影法の仕組みです。

「アイコニック・ストレッジ」

イコン

末梢で記憶
瞬間的な情報提示を中枢神経系ではなく、末梢レベルで短時間記憶するシステム。
このイコンが持続している間に、注意を向けることによって、より長い記憶が可能となる。すぐさま、他の刺激情報を受信(または検出)してしまった場合には、以前の刺激情報を取り出すことはできなくなってしまう。

イコンは…対象であるか、記憶(内的なもの)であるか。

イコンが消される

・マスキング…簡単に言うと、受け取る刺激と同じような刺激が与えられることよって、受け取る刺激が消されてしまうこと。
・メタコントラスト…視野のある場所における色や明るさが、その視野の場所に与えられた刺激のみによって決まるのではなく、その周辺に与えられた刺激によって大きく影響されること。

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